教育目標
必修授業においては、日常私たちの身近にある物をモチーフとして選んでいます。「教育の理念」で述べた「自己の外側の世界」と言う時、ここでは漠然と外の世界をイメージするのではなく、「具体的な物」をモチーフとして置いています。シンプルでオーソドックスな課題設定を心がけています。
対象を見て制作するということが昨今では、ともすれば手垢の付いたありきたりな美術表現、安易な描写力養成法、造形美術の初歩的訓練と誤解され易い状況があります。しかし、この授業では、学生のみなさんに思考を伴った観察、すなわち「見ること」そのものに重点を置いて欲しいと考えています。各自、自分の見ている物をどのように認識するのか、それは結局自分がどのように対象を捉えるかに始まって、対象を捉える自己の在り方にまで溯ることになります。
この授業の意義は、見ることによって考えることを停止した手作業の体験や、手業(てわざ)の訓練ではありません。言いかえるなら、この授業における「作品」は、対象を見て把握したり、自分の作品を見て解釈し直したりした諸々の判断による二次的副産物です。より重要なのは、『「モチーフ」と「素材」と「自分」』という三つの関係の中で、試行錯誤を繰り返す制作プロセスそのものだと言うことが出来ます。
この授業においては、いわゆる「描くための技術」としての狭義の「デッサン力」や小手先の技量は反古になります。これまで受験勉強において実技の訓練を重ねてきた学生も、全く経験の無い学生も、等しく同じ出発点から始めることになるでしょう。
普段何気なく見過ごしている「外側の世界」にある「些細な物」を徹底的に観察し、制作を通して、一人一人が言葉では言い表すことが出来ない造形美術の手応えを実感して欲しいと考えています。