彫刻を専門とする学生のみならず、全学科はもとより、他大学からの受講生も対象に開講されている共通彫塑研究室による「彫刻」では、作家養成型授業ではなく、多方面への展開と深化が可能な本学独自のリベラルアーツ型の彫刻授業の構築を目指している。
自己を取り巻く世界をどう認識するか。現実と自己の関係づけを行うための行為を「制作」ととらえ、シンプルな課題による制作を通して、学生一人ひとりが立体造形の核を実感してほしいと願っている。
造形を学ぶ者にとって、「自己の外側の世界」に真摯に向き合う事の大切さは、あらためて言うまでもありません。「自己を取り巻く世界をどう認識するか」ということは、言い換えれば「自己を見据える」ことに他なりません。立体造形や彫刻と呼ばれる美術領域における「自己の外側の世界」とは、「自己の存在する世界」、「材料の存在する世界」、「作品の存在する世界」でもあります。
しかしながら現在、みなさんもご存知の通り、美術表現はもとより私たちを取り巻く状況や、世界を飛び交う情報は日夜劇的に変化し、拡大し続けています。現代の社会では、自己をじっくりと見つめることは、益々困難になりつつあると言えます。
「物」の世界である立体領域の造形美術では、たとえ作品の構想や思想が、自己の脳裡で確実に成立したと感じ、自分の作品にまつわる言葉を駆使し、理屈や理論として明快な文脈を構築できたとしても、それが現実と関係づけられない限り、結局は空疎なものでしかありません。
現実と自己の関係づけを行うために行う行為が制作です。制作行為そのものは、それ自体がまさに思考の過程であり、単なる作業ではありません。しかし、制作行為に伴う思考の重要さは、自ら手を下さない人達には非常に理解されにくい点でもあります。逆説的にいえば、造形美術には自らが直接手を下すことでしか見えない領域があるということです。
これらのことを内的経験として実感する機会を得ることなく、作品成立のための枠組みや、表現方法、歴史的位置や価値など、第三者的に得られる知識や情報を整理し、それらを作品にどのように取り込むかという行為を急いでも、そこには自己を取り巻く曖昧で皮相な「殻」が出来上がるだけだと、私たちは考えています。
私たちの開設授業における「制作」とは、素材と共に試行錯誤する時間と、その成果を物に込める過程そのものということが出来るでしょう。授業では、出来るだけシンプルな課題による実制作を通して、立体造形の1つの核を、みなさん一人一人に実感して欲しいと考えています。
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